水工学研究室 榎本真人
傾斜サーマルの流速ベクトルと流下特性に関する実験的検討

密度流とは、二種類の流体の密度の差が起因となり斜面方向に流動する運動であり、自然において、あるいは人工的に頻繁に発生する。湖や貯水池で観察される泥水流や河口部における塩水くさび、大気における寒冷前線や海軟風、厳冬期山岳地帯で発生する煙型雪崩や火山活動に伴う火砕流などはその代表例である。

傾斜サーマルには、流下に伴い渦運動を伴うため複雑な流動形状を示し、今だ十分な解明が成されていない。また、これらの現象は自然現象と密接に関わっており、自然災害とも関係する。したがって、その流動特性を明らかにすることは重要である。例えば、雪崩の流動特性を把握することにより、災害防止にも役立つこととなる。また、傾斜サーマルは密度差の原因が溶解性の塩分濃度差や温度差などの「保存性」である場合と、固体粒子を浮遊する「非保存性」である場合に大別される。

そこで、本研究では、保存性傾斜サーマルについて実験を行い、流下特性・流動特性がどのように変化するか実験的に調べ、理論的に検討を行う。実験においては、周囲の液体には淡水を用い、流入流体にはプラスチック粒子を混ぜ可視化させた塩水を用いて、傾斜サーマルを再現し、流下速度と最大厚さの測定を行う。また傾斜サーマルの内部構造を画像解析により流速ベクトルを表し、明らかにする。

二次元的に傾斜サーマルを再現し、流下特性として最大厚さ・流下速度を、サーマルの内部特性として流速ベクトルを求めた。流下速度については、初期濃度の増加により流下速度が増加することがわかった。最大厚さについては、初期濃度が増加しても最大厚さの特性はあまり変化しないことがわかった。また、流速ベクトルの測定によりサーマルは、フロント部の巻き上がり,後部の巻込み,そして底面の流下方向ベクトルと大きく3つに分かれることがわかった。また、初期濃度が大きいほうが激しい渦運動がみられ、流下距離が進むにつれ複雑な渦運動を示した。

理論的検討としては、本実験で得られた結果を用いた保存性傾斜サーマルの数値解析を行い、実験値と比較してその妥当性を検討した。実験値は、傾斜サーマルについての室内実験を行いその流下特性として流下速度・最大厚さの測定を行った。数値計算では、保存性傾斜サーマルに対して連行係数αと抗力係数CDをパラメーターとして、流下速度・最大厚さの流下方向変化を求め、実験値との比較を行った。その結果、αを0.5,CDを0.4〜0.8とすることで解析結果は実験結果を良好に再現できることがわかった。