数値流体力学は近年の計算機能力の向上によってめざましく進歩しており、構造物周辺の
流れ場に対する理解も進んできている。しかしながら、これまでは、静止している円柱、
角柱などのように構造物は静止している場合を対象としていることが多かった。円や翼の
ように複雑な形状の構造物を考える場合、境界の形状に適合させた境界適応格子が採用さ
れている。このため物体が複雑に移動する問題では逆に取り扱いを困難にしている側面が
ある。流れに影響を受けながら移動する物体運動の例としては、破提氾濫や高潮の氾濫に
よって氾濫水とともに流入してくる多量の流木の挙動、空力弾性問題としてのタコマ橋の
崩壊などが考えられる。タコマ橋の崩壊は風が吹くことで橋の周りに渦ができ、その渦か
らの周期的な力とタコマ橋のねじれ振動が共振を起こしてしまった渦励振であると言われ
ている。このように流れにより物体が移動する場合、流体と物体の相互干渉により静止し
た物体周辺の流れとはかなり異なった流れ構造が生じる。本研究では、数値的に取り扱い
が容易な静止直交座標での流れ場シミュレーションと計算領域内で情報から格子空間内に
物体の形状を表現するモデルを導入し、流れ場と移動物体との相互干渉を計算できるモデ
ルを作成した。比較のため1)静止している物体、2)強制的に移動、回転している物体、3)
流体力に応じて自由に移動・回転する物体の3ケースを対象として数値実験を行った。本
研究では円、楕円を流れ場に表現し、静止したものと回転させたものの比較行った。円、
楕円の静止させたものに作用する流体現象は実験により可視化で示された結果と同じよう
に表現された。回転した円、楕円に作用する流体現象は円については実在の流体現象に近
い結果が得られたが、楕円に関しては流れが複雑であり、実現象の結果がなく正確に比較
は出来なかった。しかしこの円、楕円の静止している場合と強制的に移動させている場合
の数値計算の比較から物体が移動する場合、流れに与える影響は静止した場合と大きく異
なることがわかった。運動方程式の導入による物体が自由に移動する問題については物体
に作用する流れの力により移動することを表すことができた。