木 正徳

画像解析による傾斜サーマルの流速ベクトル算出と数値解析との比較

斜面上にある固体粒子が何らかの原因で浮遊すると、重力の効果により斜面方向に流動し傾斜サーマルを形成する。傾斜サーマルは、流下に従い渦運動を伴うため複雑な流動特性を示し、未だ十分な解明がなされていない。従って自然現象などと密接に関わっている傾斜サーマルの流動特性を明らかにすることは工学的に重要である。
そこで、本研究では、保存性傾斜サーマルについて実験と理論的な検討を行なう。実験では、周囲流体に淡水を用い、流入流体にはプラスチック粒子で可視化された塩水を用いて二次元的に傾斜サーマルを再現し、流下速度・最大厚さの測定を行う。またサーマルの内部特性として画像解析によって流速ベクトルを求める。そして、それぞれの結果を数値解析結果と比較・検討することを目的とする。
二次元傾斜サーマル再現実験の実験装置は、傾斜角30°の水槽で、水路長200cm、高さ100cm、水路幅30cmの矩形アクリル製水槽に幅15cmのアクリル板を30°に固定したものを用いた。流体の流入方法は引き上げ式のゲートを採用し、塩水の濃度は1%、3%、5%の3種類について実験を行った。また、このときの実験映像を記録し、その映像をもとに画像解析により流速ベクトルの算出を行なった。
傾斜サーマルの解析モデルはk-ε乱流モデル、離散化手法はSIMPLE法を用いた。基礎方程式として、連続式,x方向運動方程式,z方向運動方程式,拡散方程式,乱流運動方程式,分子粘性逸散率を用いた。
実験値と解析値の比較で、流動特性として流下速度は、大まかな傾向は示している。実験で見られた初期濃度が大きくなることによる流下速度のばらつきも解析結果で表れていることが分かる。最大厚さの比較では、解析値が実験値にほぼ一致しており良い傾向の再現ができている。1%の流下距離80cm以降で実験値が低い値となっている。これは、実験値があまり良い結果が得られなかったことと、解析結果で流下距離80cm以降の最大厚さをmax濃度としていためである。
内部特性として流速ベクトル比較は、実験結果より傾斜サーマルは、底面付近流下方向・フロント部巻上げ・後部巻き込み流速ベクトルの大きく3つに分かれた。これは、解析結果でもよく再現できていた。また、最大流速ベクトルは先端部ではなく底面中央部辺りにあり、流下距離が進むにつれ徐々に後方へと移行していることが分かった。実験により見られた流下距離が進むにつれて移り変わる、巻き上げ,巻き込み,流下方向流速ベクトルの割合変化も、解析により特徴を捉えていた。
結論としては、流下速度は流下距離に対してほぼ一定となった。流下距離60cmまででは良好な再現結果が得られなかった。しかし、流下距離60~120cmでは良い結果が得られ、全体としては、妥当であると考えられる。最大厚さは流下距離に対してほぼ一次関数的に増加していることなど、数値解析でも良好な再現ができた。流速ベクトルでは、実験により見られた底面付近流下方向・フロント部巻き上がり・後部巻き込み流速ベクトルが数値解析でも確認することができた。また、流下距離が進むにつれ最大の流速ベクトルが先端から中央、そして後方へと移動している様子が良好に再現できた。