酒井 彩美
微細な地形情報を考慮した氾濫流の数値計算
わが国は国土の10%にあたる洪水氾濫区域(洪水時の河川水位よりも地盤の低い地域)に総人口の50%、資産の75%が集中しているといわれ、夏季の豪雨の時期には洪水氾濫による甚大な被害を受けやすい状況に置かれている。このため古くから堤防の建設や河川改修等によって洪水を発生させない対策が推進されてきた。しかしながら、都市化の進展や土地利用の高度化が進み、河川改修工事による洪水対策が困難な状況となってきた。また平成11年の福岡水害、平成12年の東海水害に代表されるように、新たな問題として中小都市河川による都市型水害が見られるようになってきた。土地の低い市街地では中小河川の氾濫が起りやすいだけでなく、周辺に降った雨が流れ込んでくるため堤内地の排水が追いつかずに下水溝から溢れ出すといった内水氾濫や、地下空間への浸水などの問題が発生しやすくなっている。このため国土交通省では河川が氾濫することをある程度許容した政策に転換しつつある。
このような状況で被害を軽減するために、情報を伝達し日ごろから洪水災害に対する住民の防災意識の涵養などソフト面の対策も重要である。このために、行政機関により氾濫シミュレーションを行ったり、ハザードマップ(洪水氾濫区域図に避難地等の情報を表示したもの)を作成したりする動きがある。しかし従来の氾濫のシミュレーションは格子間隔が例えば500mと広く、都市における中小河川に対して適用することが事実上不可能である。
このような背景から、本研究ではより解像度の高いシミュレーションの開発を目的に、非線形長波方程式を用いて氾濫を計算するアルゴリズムを作成し、仮想的に作成した地形に対して従来の氾濫計算より細かい格子間隔で計算を行った。さらに実地形への適用として長岡市中心部を流れる柿川流域について、マンホール標高データと住区データを利用して詳細な土地情報を作成し、格子間隔1mというこれまでに類を見ないほどの高分解能で氾濫計算を行った。その結果より、都市域の中小河川を対象とした氾濫シミュレーションの可能性を示すことができた。