水工学研究室  菊地 卓郎
k−ε乱流モデルによる地吹雪の発達過程の解析

吹雪は煙型雪崩の発生要因の一つとも考えられ,その流動特性を知ることは,固気ニ相流の基本的な流動特性を把握するばかりでなく,雪崩の発生要因の推定という意味でも興味がある。

本研究の目的は,発達過程にある地吹雪について数値計算を行い,風洞実験で発生させた小スケールの地吹雪、さらには南極みずほ基地で観測された、現地規模の吹雪との比較を行う。数値モデルとしては、雪粒子の濃度勾配による成層効果を表現し得るモデルのうちもっとも単純なモデルであるk−ε乱流モデルを採用した。雪粒子の輸送を沈降速度を考慮した乱流拡散方程式で表されると仮定した。吹雪の特性を表す飛雪流量の分布に着目し、実験結果・観測結果と数値モデルによる計算値と比較することにより、モデルの妥当性を検討した。

数値解と比較したのは、科学技術庁防災科学技術研究所新庄雪氷防災研究支所の雪氷防災実験棟内にある低温風洞装置を用いて行われた、福嶋他(2001)の風速分布、飛雪流量分布の実験結果を用いた。現地観測として、南極みずほ基地において行われた西村(北大低温研、2001)の風速、飛雪流量の観測結果を用いた。

 風洞実験との比較において、風速分布は実験値、数値解ともに壁面から離れるにしたがって増加する、平板上の乱流境界層の特性を再現している。飛雪流量分布は、底面直上から急速に減少し、15cmほどで零になる。これは、雪粒子の密度が空気の密度よりはるかに大きいため、底面より離れた領域まで浮遊を維持することが難しいためである。現地観測との比較においては、計算では無次元圧力勾配Ipを調整することによって、風速の大きさを調整できる。現地では高さ3mでの風速が測定されており、この値と数値解が一致するように圧力勾配の値を調整した。この場合も風速分布は壁面流れの分布形を示すことが確認された。飛雪流量分布との比較では、沈降速度を調整し、特に底面付近で測定値と数値解が一致するように試行錯誤した。密度が既知の場合、沈降速度は無風時における雪粒子の力の釣り合い式から求められる。今回、現場の測定では、SPCにより雪粒子の粒径が実測されている。そこで、飛雪流量分布の実測値と数値解の比較から求めた沈降速度と粒径を用いて、密度を逆算した。風洞実験・現地観測との比較における今回の雪の連行係数Esの値は、Garciaの式より2桁ほど小さく、砂の連行係数Esaよりもかなり小さい。これは、水中での砂粒子の比重に比べて、空気に対する雪粒子の比重が極めて大きいことによると考えている。

 本研究で用いた数値解析手法によって、風洞実験での小スケールの地吹雪、現地観測の大スケールの地吹雪を説明できることを示した。また、雪の連行係数Esを算出し、その値が開水路の土砂流から得られた値に比べて非常に小さいことが分かった。