実地形を考慮した多方向不規則波による波、海浜流、地形変化に関する数値実験

                           水工学研究室 樺澤 弘悦


我が国は大小約3000の島からなり、海岸線は34265kmにも及んでおり、国土の約70%が山岳地帯となっている。このため、古くから低平地である沿岸平野部に人口が集中してきた。現在わが国の海岸付近は道路、鉄道などの交通施設や人々の憩いの場として利用され、人々にとって欠かすことのできない場ではあるが、台風、冬季波浪などの厳しい自然条件やダムによって起こる海への土砂流出の減少、海岸自体の地盤沈下、海岸への土砂供給のアンバランスによって年々砂浜が侵食される傾向のある海岸が多い。 また、日本の海岸は種種の海岸構造物の設置により複雑な形状をなしている。このような複雑な現象を理解するためには数値実験や室内実験が欠かせない。本研究ではより現実的な海岸波動場を数値実験によって表現するため、波動の分散性を考慮した波動場数値モデルを用いて、多方向不規則波に対する波動場、海浜流、地形変化、および構造物との相互関係を把握することを目的とする。
本研究では、二次元の修正ブシネスク方程式をと多方向不規則波を用いて波動場の数値計算を行った。海浜流の流速は流量を水深で除し、波の1周期にわたって平均することによって計算した。流速は2次元を仮定し、鉛直方向に平均された流れ場について計算を行った。地形変化には漂砂現象が大きく関係しており、海浜流によって各地点ごとの漂砂量と方向を求め、地形変化の計算には底質量保存式を用いた。

 本研究はモデルケースとし一様勾配を持つ海浜モデルに、構造物がない場合、潜堤(海面下1.5m)を設置した場合、離岸堤(高さ1.5m)を設置した場合について計算を行った。モデルケースについては岸沖方向500m、沿岸方向1000mの領域をdx=5m、dy=5mのメッシュで覆い、それぞれ100×200の領域とした。また、これらを基礎とし、新潟西海岸の実地形を取り入れて数値計算を行った.実地形を取り入れたケースについては岸沖方向2550m、沿岸方向2300mの領域をdx=5m、dy=5mのメッシュで覆い、それぞれ510×460の領域とした。どちらも計算時間間隔は0.1秒とした。
本研究を行うことにより以下の知見を得るに至った。修正ブシネスク方程式により、波の分散性や波の進行にともなう屈折、構造物による回折を計算できた。多方向不規則波を計算に取り入れることができた。また、砕波項の空間分布より砕波帯を空間的にとらえることができた。海浜流やそれに伴う地形変化をベイラードによって提案された漂砂量、掃流砂量およびそれに伴う地形変化の時間発展を計算できた。室内実験と数値計算の結果との定性的な一致が得られた。