「音場―吸音材」結合系を考慮した騒音伝播モデルの開発

三原田 洋介

近年、さまざまな環境問題への関心が高まってきている。なかでも騒音問題は日常生活に関係の深い環境問題として、公害に関する苦情件数のうちで最も多くを占めている。騒音の発生源は多種多様であるが、例年、工場・事業場騒音が最も多く、建設作業騒音、深夜営業騒音がそれに次いでいる。苦情件数の推移を見ると、それらは長期的には減少傾向にあるものの、道路交通騒音については横ばいとなっているのが現状である。
音源から発せられた騒音は、受音点までの距離によってかなり減音する。また、騒音の伝播経路に障害物がある場合には、音がさえぎられ、音の回折作用による減音効果によってさらに減音される。この回折作用を利用したものが遮音壁であり、その形状、材質によっては、音の伝播経路に経路差が生じ、減音効果に大きく影響してくる。
様々な形状や材質の遮音壁の効果を解析するには、音源から騒音が伝播していく様子を時間経過とともに追跡する手法が必要である。そのためには、それぞれの要素マトリックスを変更する必要があり、市販のプログラムでは作業が困難である。このことから、本研究では有限要素法を用いて騒音伝播プログラムを作成し、遮音壁の形状や材質による音圧の軽減を解析することを最終目的とする。
過去の研究(田村モデル)においては、有限要素法を用いて比較的簡単な閉空間における騒音伝播プログラムの開発が行われた。その成果として、閉空間における音圧分布を求めることができた。しかし、本来求めたい音場、すなわち自由音場における音圧分布については解析不可能であった。この問題点は、閉空間において壁面での反射を無くすことができなかったからである。そこで本年度の研究は、過去の研究と同様に有限要素法を用いて、自由音場における騒音伝播モデルの開発を目的としている。
本年度研究の結果として音の伝播モデルの解析においては、2次元音場において点音源から発せられた音圧が円状に伝播されていくプログラムを開発することができた。しかし、同様に田村モデルのプログラムにおいても、点音源からの解析を行ったところ正確な結果を得ることが出来なかった。この原因はプログラム作成段階で音の変位が方向を持ち合わせていることに気付かなかったためと考えられる。また、研究段階において音源を要素の中心ではなく、壁面からだけの解析としたために、プログラムが円状の広がりを見せる解析が出来ないことを見落としていたためでもある。
本年度の研究結果は、点音源から発せられた音が円状の広がりを見せるプログラムを開発することにとどまった。したがって、今後の課題は、壁面での反射を消散できるプログラムを開発し、さらなる自由音場への適用ができるプログラムを開発することである。