丹羽康修
地中音による地すべり予知システム開発のための振動基礎研究


 近年、日本では土砂災害が著しく目立つようになっており、全国各地には、今なお危険箇所が数多く存在している。そのため、斜面監視体制の強化が必要とされ、現在、崩壊や地すべりの危険性がある斜面の監視には、様々なシステムが利用されている。そこで、わが建設設計研究室では、数年前からCCDカメラを用いた斜面監視システムを開発している。このシステムは斜面の地表だけが監視の対象となっている。そこで、地表で地すべりが観測される前の段階で地中の土構造が変化する現象を地中音から予測できないかとの考えに至り、新たな手法として昨年度から音響的手法を用いた斜面監視システムが考案された。

 昨年度の研究では、提案者の経験からセンサを樹木に設置して計測を行った。しかし、センサを樹木に設置した計測には以下に示す問題点が生じた。
(1)風の影響で枝や葉が揺れたりして、地中音以外の周囲の音も拾ってしまう
(2)樹木の状態(種類、幹の太さ、根の張り方、etc)によっても伝わり方が異なる
(3)地すべりが発生すると思われる斜面に樹木が常に存在するとは限らない

 そこで、今年度は、樹木の代わりに単管パイプを用いた。まずはじめに、加振器で振動を与えて、単管パイプにセンサを設置する高さ、単管パイプの根入れ長さ、etcについての基礎的実験を行った。この結果、地中音を取得する観測媒体として容易に取得・設置することができる単管パイプを樹木の代わりに利用し、樹木と同等の地中音データを取得することができることが分かった。

 次に、実際に地すべり現場で単管パイプを用いて斜面に設置し、計測を行った。今回は計測開始時期が遅く、実際の地すべり現場(沖見現場)で加振器を地中に埋めて計測が出来なかった。そこで、基礎実験と沖見現場の地盤状態を同じと仮定し、基礎実験で得られた一様な振動入力スペクトルに対する出力値と地中音のセンサ出力値とを比較し、入力値推測ができた。

 今後は、今年度、計測を行っている沖見現場、及びいろいろな地すべり現場で計測を行い、出力値から入力値を推測する。そして各現場に適したセンサを製作し、地中音を測定する。また、他の手法で得られた地すべり発生時計測データと地すべり発生時前の振動周波数スペクトルを特定し、比較評価を行い、システムの信頼性を高める必要がある。