氏名:佐野 裕明
タイトル:滑りを考慮したケーブル部材の構造解析法に関する研究
要旨:

 ケーブル部材を有限要素法で解析する場合には,直線要素を多数用いた方法が簡便で
あるが,分布荷重が作用し,大きなサグが生じるような柔ケーブル構造の場合には,多
数の要素を必要とする.このため,中間節点を設けた曲線ケーブル要素が開発されてい
る.中間節点を多数設けた高次要素を用いれば,少ない自由度で精度の良い解析が可能
になるが,通常のラグランジュ多項式を用いた要素では,剛性行列の条件数が大きくな
り,次数をあまり高くできない.


 応力法に基づいたケーブル構造の解析法が開発されているが,これらの解析法は,ケ
ーブル端での平衡条件や適合条件式を解く方法であり,一般の有限要素法とは手法が異
なり種々の汎用性に欠けるきらいがある.


 滑車を有するケーブル構造の解析を真柄らは,混合法の手法によりケーブルの滑動を
許す場合の解析法を示している.しかし,ケーブル要素は直線要素によるリンクケーブ
ルとして扱い,自重などの分布荷重は,等価な節点力に置き換えている.Aufaureは,
滑車と隣接するケーブルを含んだ3節点の「滑車要素」を誘導している.このときケー
ブル部は直線として扱っている.


 ケーブル要素の全ポテンシャルエネルギーの汎関数を修正して,少ない自由度で解析
可能なケーブル要素が提案されている.この要素の独立な変分量は,要素両端の変位と
要素内の平衡方程式を解いた時に生じる積分定数であるが,積分定数は各要素に独立な
値であるので,これを消去すると,通常の変位法に基づいた剛性方程式に相当する式が
得られる利点がある.そこで,本研究では,この手法を更新型ラグランジュの手法に適
用し,さらに要素端部に滑車を有する場合のケーブル要素を提案する.


 ケーブル要素の汎関数を修正し,両節点での変位から要素内での変位を補間する必要
の無い汎関数を示し,この汎関数によるケーブル要素の剛性方程式を誘導した.この要
素は,剛性方程式の積分を正確に行えば,ケーブル要素の正しい剛性方程式が得られる
ので,少ない自由度で,大きくたわんだ状態のケーブルの解析が行えることを示した.
また,汎関数に隣接するケーブル要素間の軸力が等しい条件を付加することにより,
節点に滑車を有するケーブル要素の剛性方程式を誘導し,数値計算により,その妥当性
と有効性を示した.