氏名   松野 純一 Junichi MATSUNO
タイトル 骨組構造物の非線形挙動の数値解析法に関する研究

 骨組構造物の幾何学的非線形解析手法に関する限り, 理論的な基礎はほぼ完成していると考えられている. その一方で, 実際に非線形解析を必要とする設計者や技術者にとって, 複雑な理論や, 煩雑なアルゴリズムよりなる数値解析法を理解するのは, 時間的制約もあり困難となっている. このため, 収束性や求解に必要な,物理的に不明確なパラメータを減らし,入力データが容易に作成できるような非線形解析システムの開発が必要である.

 一般に,釣り合い曲線を追跡する際には,既往の手法の中で汎用性の高いことが確認されている弧長制御法がよく用いられる.しかし,釣り合い曲線の概略の形状は予想できても,その定量的な形状は計算を行ってみなければ分からないため,事前に適切な弧長を入力データにより設定するのは困難であり,試行錯誤によるデータ作成と解析を繰り返しながら適切な弧長を設定する必要がある.

 本研究は,弧長制御法に基づく不平衡ベクトル最小法を用いて, その増分量である弧長の長さを曲率の変化に伴い自動的に決定できるような新しい弧長自動設定法を提案した.数値計算例により,既往の研究で考案されているItohとNogamiによる方法,Chaisomphobらによる方法そして,Szyszkowskiらによる方法との比較を行い,以下のような結論が得られた.

・既往の研究で考案された方法では,任意定数等の物理的に不明確なパラメータを必要とするが,その設定方法が不明であったり,そのパラメータにより収束性が大きく変化するために,試行錯誤が必要であることが確認できた.

・また,釣り合い曲線の非線形性状によって,極端に弧長が短くなったり長くなったりすることがあり,その使用に注意する必要のあることが分った.

・これに対して,本研究で提案した方法では,既往の手法と同様に,最初の数増分ステップ分の弧長を与えるだけで,複雑な形状の釣り合い曲線を持つ構造においても,安定した数値解の得られることが分った.

 したがって, 本研究で提案した弧長自動設定法の有効性が確認できた.