登石将士
塩化物含有ガラスの化学的耐久性
ごみ焼却灰を溶融することによって得られるスラグは安全に処理することだけでなく、最終処分場の不足により資源化することが望まれている。この溶融の過程を還元雰囲気化で行うことにより塩化物を含有したスラグが得られる。しかし、塩化物がガラスの構造や物性に与える影響は明らかではない。そこで本研究ではスラグを資源化する上で重要な要素である化学的耐久性に塩化物が与える影響を調べ、その溶解メカニズムを解明することを目的とした。
化学試薬から塩化物を含有したCaO−Al2O3−SiO2ガラスを作成し、その化学的耐久性を表面法により測定した。
75℃の蒸留水で試験した結果、40時間までは塩化物を含有していないガラスの耐久性が高く、それ以降は塩化物を含有したガラスの耐久性が高いことがわかった。このガラスの化学的耐久性は溶液のpH変化と関係していた。また、比較のために窓ガラスに近い組成のガラスで同じ試験を行ったところ化学的耐久性は同じ程度である事がわかった。窓ガラスは比較的耐久性の高いガラスであることから、塩化物含有ガラスは耐久性が高いと言える。
pH3、6、11の異なる溶液で耐久性を試験したところ、耐酸性は塩化物含有量に関わらず低く、耐アルカリ性は塩化物含有量が増えるとともに高くなった。このことから塩化物を含有することにより、ガラスの耐酸性への影響は無く、耐アルカリ性は向上することがわかった。
ICPにより溶液中の各元素濃度を測定し、溶液中の各元素の割合とガラス組成と比較したところ、塩化物を含有するにつれてCaとAlが溶出しやすくなり、Siが溶出しにくくなることがわかった。このことから塩化物を含有したガラスの溶出表面ではSiの豊富な表面層が形成されていると考えられる。
SEMにより溶出後のガラス表面を観察したところ表面に空洞状の構造を確認できた。この空洞状の構造は塩化物含有量が多くなるとともに増え、構造も複雑になっていた。これは表面から溶出しやすいCaとClが選択的に溶出した結果であると考えられる。これらの結果をもとに塩化物含有ガラスの構造モデルを考案した。また、この構造モデルをもとに塩化物含有ガラスの溶出メカニズムを推察した。
以上の結果から塩化物を含有したスラグの耐久性は塩化物を含有していないスラグの耐久性と大きな差は無いことが予想される。