谷村公
異種金属元素を添加したα-オキシ水酸化鉄による重金属イオン吸着

 廃棄物処理場浸出水における溶出重金属対策として、今後、回収・再利用が
必要となる。吸着処理は一般的に反応時間が短く、微量元素の回収に適してい
る。吸着剤に重金属イオン選択吸着性を付与できれば、金属の分離、回収に非
常に有益である。本研究では、一般に重金属イオンに対して高い吸着力を持つ
ことが知られているα-オキシ水酸化鉄(α-FeOOH、goethite)に注目した。 
goethiteに対する異種金属元素の添加による結晶格子中FeIIIの部分置換、含有
元素の溶出挙動、および複合体形成が、水溶液中におけるPbイオンの選択的
吸着におよぼす影響を明らかにすることを、本研究目的とした。Goethiteを構
成するFeIIIと酸化数の異なる+2価が安定な元素に着目し、遷移金属としてCoII、
CuII、ZnII、およびNiIIを、アルカリ土類金属としてSrIIを、それぞれ添加金属
元素として選択した。これらの添加金属元素とFeIIIとの価電子状態およびイオ
ン半径などの差異によって変化するgoethite粒子の結晶形態と、水溶液中のPb、
Zn、Cuイオンに対する選択吸着効果との関連性を検討した。

 異種金属添加goethite試料は、+3価の鉄を含むFe(NO3)3と添加金属元素の
硝酸塩の各混合溶液にKOHを加えた析出沈殿法により合成した。さらに、
goethite相と共存する試料中の副生成相に対して、硫酸洗浄処理による除去効
果を検討した。これらの合成粒子に対して、X線回折による生成相同定・格子
定数精密化、表面積測定、湿式分析法による異種金属含有量の測定を行った。
Cu添加goethite試料では、添加濃度増加に比例してhematite相の析出が顕著
となった。Sr、Cu、Zn、Ni添加goethiteの格子定数は、いずれも添加濃度に
比例して増大傾向を示したが、Co添加試料では減少傾向を示した。

 異種金属添加goethiteのPb、Cu、Znイオンに対する吸着特性を測定した
結果、Sr添加試料は重金属イオンに対して高い吸着能を示し、Cuイオンより
もPbイオンに対する高い優先吸着性を示した。Pbイオンに対する吸着量増加
は、Sr添加試料に含まれるSrと溶液中のPbイオンとのイオン交換反応と考
えられる。Sr2+とPb2+のイオン半径がほぼ等しいことから、吸着サイト占有サ
イズがPbイオンの選択的吸着を支配したものと考察した。

 Cu添加試料による吸着実験の結果、Pbイオンに対して高い選択的吸着特性
を持つことを見いだした。この選択的吸着はgoethite相と同時に析出した
hematite相によることを示した。Zn、Ni添加試料による吸着実験結果では、Cu
イオン吸着量が減少し、Pbイオン吸着量が増加した。この選択的吸着は、Zn、
Ni添加goethiteの格子定数増大に依存した。Pbイオン吸着がgoethite格子表
面に存在するH+に対するPb(OH)+の交換反応により進行することから、Zn、
Ni添加試料では格子空間の広がりが生じ、周囲の配位O2-の干渉が減少するこ
とによって、新しい吸着サイトが生じたためと考察した。

 従って、本研究では、水溶液中に存在する混合重金属(Pb、Cu、Zn)イオ
ンに対するPbイオンの選択的吸着を支配する因子として、goethite結晶格子
のサイズ効果およびイオン交換反応性の役割を明らかにした。