高草木 俊之
酸化銅−リン酸塩系低融点ガラスの物性評価

近年の環境問題の高まりを受け、環境汚染物質に対する規
制は厳しくなっている。この規制対象となる材料、工業製品等も多い。
ガラス材料分野において、Pbは多くの特性を持ち且つ安価であるため、様々な用途で用いられてきた。
特にPbOを多量に含有したガラスは、非常に低いガラス転移温度を持
つため、低融点ガラスとして使用されてきた。低融点ガラスは主にエレクトロニ
クス産業の電子基盤の封着材料として利用されている。最近では光学ガラス分野で光
学的特性を維持している低融点ガラスが使用されている。しかし、従来の低融点ガラスは
環境汚染物質であるPbOを多量に含有しているため規制対象材料となっている。
このような背景から、環境影響負荷の小さい低融点ガラス開発が、産業技術・環境保全の両面で強く望まれている。以前、50P2O5-50CuOガラ
に低下する報告あった。この報告より、P2O5-CuO組成系は低融点ガラスとして有望であると考えられる。本研究では、P2O5-CuO系に第3成分としてZnOを加え
た3成分系ガラスを用いた。P2O5-CuO-ZnOガラスのガラス化範囲を決定した後、Glucose還元雰囲気溶融を行い、ガラス中のCu2+イオン
を還元した時に生じる諸物性を調査した。
また本組成の低融点ガラスとしての可能性を検討した。
P2O5-CuO-ZnO系の
ガラス化範囲は広いが、P2O5含有量が50mol%以下ではガラス化し難いことがわかった。
Glucoseによる還元雰囲気溶融は、本組成に対し有効であった。
また、Glucose還元により、ガラス転移温度が最大で約250℃低下することが確認さ
れた。このガラス転移温度の低下現象は、ガラス中のCu2+イオンがCu+イオンに還元されることに起因していた。
ガラス中のCu2+イオンがCu+イオン還元されると、ガラス中の銅イオンの配位数が変化し架橋酸素が減少する。
この結果、ガラス構造が緩和され低融点ガラスとして可能な温度域まで熱的性質が低下したものと考えられる。
しかし、還元されたCu+イオンは酸素存在下では非常に不安定なため、容易に結晶化を起こすことがわかった。
また、低融点ガラスとしての熱的性質を持たせたままガラス状態を維持するためには不活性雰囲気等の雰囲気制御が必要であることがわかった。
以上の結果より、P2O5-CuO-ZnOガラスは新規低融点ガラスとして有望であると言える。