佐藤 賀基
全固体型擬似キャパシタにおけるWO3電極の結晶配向性

 近い将来に予見されているエネルギー危機および環境問題に対する備えとして、代替エ
ネルギーの利用以外に新たなエネルギー貯蔵方式の開発が求められており、その1つとし
て電気化学キャパシタが注目されている。本研究では液体電解質と貴金属電極を組み合わ
せた従来型の擬似キャパシタに代わる、全固体型の擬似キャパシタ開発を目的として、タ
ングステン酸化物とリチウムイオン伝導ガラス電解質を組み合わせた薄膜キャパシタ素子
に着目した。液体から固体、貴金属から酸化物への構成材料の変換によって、安全性・信
頼性・コストパフォーマンスが向上し、さらに薄膜化することで高いパワー密度とエネル
ギー密度が実現できる。作製素子の評価は、従来の明らかでなかった固体同士の電極・電
解質界面における電極反応の解析を目的として、サイクリックボルタンメトリー(CV)測
定を中心とした電気化学的解析を試みた。また、CV曲線からキャパシタの電気的容量を求
めた。さらにWO3電極については、反応性スパッタリング法による作製過程において最適
結晶配向条件の決定を行ない、結晶相同定および化学結合状態のキャラクタリゼーション
を行ない、キャパシタ特性に対するWO3薄膜電極の結晶配向性の影響について考察した。
また、3種類の組成の異なるガラス電解質を抵抗加熱蒸着法およびゾル-ゲル法を用いて作
製し、それぞれの電解質についてキャパシタ特性を検討した。これらの結果を、焼成を施
して比表面積を増大させた電極を用いた場合と比較検討した。以上の結果から、全固体型
擬似キャパシタの実用化および新しいタイプのエネルギー貯蔵素子としての可能性につい
て検討した。WO3電極は基板温度873K、プラズマ励起出力150Wの条件で成膜すること
によりOrthorhombicの結晶系となり、WO3粒子成長は(001)結晶軸方向に優先的に起こ
る。すなわち、格子間距離の広い(001)面の結晶配向によってLiイオンの拡散量が増大
し、キャパシタの電気的容量に寄与する。反面、放電に伴うイオン放出の時間的なずれが
顕著となるため、充放電の迅速な切り替えが困難になった。このずれは電極・電解質界面
における電気的抵抗に原因があるため、電極の比表面積の増大による抵抗の軽減によって
解決できると考察した。

 本研究によって電極表面形態の制御法について知見が得られたことにより、従来までの
電極作製法の応用やより高いイオン伝導度を持つ電解質の採用によって性能向上が可能と
なった。本研究対象の全固体型キャパシタは新たなエネルギー貯蔵素子として有望なもの
であると結論した。