内野陽介
P2O5-CuOx-ZnO低融点ガラスの化学的耐久性
環境問題あるいは公害問題には様々なものがある。
有害物質による汚染を防止するために、水銀など元素単位で規制される物質も多くなっている。
鉛もその規制の対象となっており鉛を使用した材料もまた使用禁止の方向になってきている。
主にエレクトロニクス機器製造で封着用に低融点ガラスと呼ばれるガラスは酸化鉛を多量に含んでおり、これもまた問題となっている。
そのために鉛を含まない新しい低融点ガラスを開発する事は先端技術の発展のため、また環境保全のためにも非常に重要で急務である。
CuOを含有するガラスは、その銅イオンの価数を2から1へ制御することにより、ガラス転移温度(Tg,K)およびガラス軟化温度(Tf,K)が低くなることが報告されている。
しかしながら、熱物性だけで低融点ガラスとしての実用性を評価することはできないのが現状である。
低融点ガラスとして用いる際には、ガラスの化学的耐久性や機械的性質などの諸物性も重要な因子になってくる。
そこで本研究では、P2O5-CuOx-ZnO系ガラスを大気雰囲気および還元雰囲気で作製し、化学的耐久性を従来の鉛ホウ酸塩ガラス、鉛ケイ酸塩ガラスと比較することにより、新しい低融点ガラスとしての可能性を検討した。
その結果、大気雰囲気で作製したガラスではZnOをCuOに置換することにより、ガラスの耐水性は向上した。このことは、網目形成酸化物であるZnとCuの単結合強度およびイオン化傾向に起因していると考えられる。またリン酸の含有率を増加させると、耐水性も向上することが観察された。これはリン酸の含有率による、ガラス中のnetwork structure の構造変化に起因していると考えられる。
このことから、P2O5-CuOx-ZnO系ガラスの化学的耐久性に影響を与える因子は、リン酸のnetwork structure の構造、網目形成酸化物の単結合強度およびイオン化傾向であることが推察される。
また、還元雰囲気で作製したガラスにおいて、大気雰囲気で作製したガラスと耐水性にはあまり変化が観察されなかった。
このことは低融点ガラスとしては非常に良い傾向である。
従来の低融点ガラスと耐水性の比較で、鉛ケイ酸塩の代用としての可能性は低いが、鉛ホウ酸塩の代用としては十分に可能性があることを示唆する結果となった。
以上のことより、P2O5-CuOx-ZnO系ガラスは、新しい低融点ガラスとして十分に実用化できる可能性を示唆した。