内野茂雄
白金とガラス融液の界面反応 −電気化学的解析−
白金は、装飾・財産的価値の他に、耐食性、耐熱性、触媒作用など多くの工学的有用性を持つことから、種々の工業用途に広く応用されている。ガラス工業分野においては、高温を要するガラス溶融に対して化学的安定性に優れていることから、原料溶融容器として白金が利用されている。しかし、白金は化学的に完全な不活性物質ではなく、溶融条件によっては融液中への溶解・混入や、異種元素と合金を形成することがある。ガラス中へ溶解・混入した白金は、種々の悪影響を及ぼすことが知られている。例えば、高純度を要する光学用ガラスに対して、光通信時の伝送損失、レーザー発振時のレーザーガラス破損、液晶ディスプレイの解像度低下などさまざま問題を引き起こす。しかし、現在のところ、白金とガラス融液の反応メカニズムは詳細にされていない。ガラス融液はイオン性融体である。従って、白金とガラス融液の反応を解明するためには、電気化学的な手法に基づく解析が最適であると考えられる。本研究では、アルカリフリーガラス融液(48SiO2-33ZnO-19CaO(mol%))に対して白金を電極材とする電気分解を行った。電気分解は1300,1400℃の温度において行い、電位掃引法によるサイクリックボルタンメトリーを適用した。その結果、アルカリフリーガラス融液では明瞭な白金の酸化・還元電流は観察されなかったが、定電位電解およびガラス融液への白金化合物の添加による電位-電流曲線への効果を調査することにより、各々の電位における電極反応を特定し、白金に関する電極反応およびガラス溶融プロセスにおける白金の溶解について検討した。その結果、48SiO2-33ZnO-19CaO融液において−800mV付近の電位で亜鉛が還元され、還元された亜鉛は電極材であると白金と合金(Pt7Zn12)を形成し、白金を侵食することが確認された。また、正電位に分極させることで酸素の発生が起こることがわかった。また、ガラス中に白金化合物を添加することで、ボルタモグラム中に白金化合物添加前には観察されなかった酸化還元ピークが現れた。この結果より、ガラス融液中へ溶解した白金は、白金−ガラス融液における平衡電位に対して、+200mVから+400mV分極することにより還元されることがわかった。・ +400mV : Pt4+ + 2e− → Pt2+・ +200mV : Pt2+ + 2e− → Pt0