山本 武志
景観に配慮した野立広告物のあり方に関する研究
都市化の進展と道路整備や自動車交通の発展に伴い、都市郊外の幹線道路では、
多くの野立広告物が掲出されるようになっている。これらの野立広告物は、大型
化、乱立、色彩の乱用等により、道路景観を損なっている事例も少なからず見受
けられる。
このような実状から、近年、屋外広告物法の見直しが検討されるようになった。
現行屋外広告物法の基本理念である「美観風致の維持」に景観理念を導入し、
「良好な景観の形成」に転換する、つまり「美しい景観を保全する」だけでなく
「良好な景観を積極的に形成していこう」という意向である。
このような背景のもと、本研究では、そこに存在する広告と景観は、住民にと
ってはいずれも公共財であり、看板の掲出主体である企業が意図とする広告効果
を保ちつつも、周辺景観との調和を図っていくことが重要であるという認識にた
ち、@掲出主体側の企業とそれを見る側の住民の、野立広告物に対する意識構造
の違いを把握すること、A良好な景観の形成に向けた法規制のあり方への提案を
行うこと、の2点を目的としている。本研究では、長岡市郊外の国道8号線沿道
に掲出されている野立広告物をケーススタディとしてとり挙げ、まずは法規制の
現状について外観し、次に野立広告物の掲出状況を現地調査により把握し、さら
には掲出主体である企業と周辺住民の双方の野立広告物に対する意識のあり様を
アンケート調査により把握・検討を行った。
その結果、野立広告物に対する住民側の意識としては、広告効果よりも周辺景
観への配慮の観点に重きを置くのに対し、企業側は、広告効果を優先的に思考す
る傾向にあり、野立広告物に対する意識構造に違いが生じていることが明らかと
なった。しかし、広告表示内容の違いによって住民意識の構造を詳しく見ると、
企業立地場所への案内誘導を目的とした広告物に対しては、単なる企業イメージ
PRのみを目的とした広告物と比べて、その広告効果を重要視する傾向にあり、こ
の傾向は居住歴が短い住民層において特に顕著であった。すなわち、地理的な知
識が相対的に乏しい住民層にとっては、このような野立広告物がもつ広告効果は
ある一定の意味を持つ一方で、長年そこに居住している住民にとっては、もはや
広告効果の観点からの広告物の存在意味は小さく、逆に周辺景観の阻害要因とし
ての意味合いが強いものとなっていることが考えられる。
また、野立広告物に対する規制や対策に関しては、企業側も住民側も共にある
程度の規制をすべきであるとの意向を示しており、野立広告物の掲出に関する秩
序形成が求められている。しかしながら、前述の通り、企業と住民の意識構造に
は相違が見られることから、規制内容や対策内容の検討は、ここで明らかとなっ
た双方の意識構造を十分に踏まえた上で行われるべきであろう。