反町 智 世帯構成員と時空間の制約を考慮した交通行動モデルの構築


 交通需要予測や交通施策の評価を適切に行うためには,個人の交通行動を的確に把握・予測しなければならない.そのためには,「交通需要は活動の実行に伴って誘発されるものであり,且つ,トリップは個人が時空間内で実行する生活行動の一部である」という大前提に基づくことが必要である.
これまでの既存の研究では,非集計モデルを用いて個人属性や活動時間,トリップ数など,個人に基づく変数が主に扱われる.しかし,個人が活動をする際には,その活動を自らの意思だけで行うということはありえない.個人は一人で生活を行っているわけではなく,様々なコミュニティに囲まれて活動を行っている.ならば,これまでのように個人の交通行動を的確に予測するためには,個人に基づく要因だけではなく,個人以外の外的な要因も考慮して予測しなければならない.そこで,本研究では,最小のコミュニティである家族(世帯構成員)に着目し,そこから受ける外的な要因を考慮し,共分散構造方程式を用いて交通行動をモデル化することの適用性を検討することを目的とする.
また,長岡都市圏パーソントリップ調査の一日のトリップデータを用いて平日の主要なトリップメイカーである就業者を対象として,自由活動に対する意思強度を測る「就業者の自由活動実行における意思強度モデル」と就業者の行動パターンの指標を内生化した「就業者の行動モデル」を共分散構造方程式の枠組みで構築することを試みた.これによって世帯構成員の行動や時間的制約が及ぼす意思強度や行動パターン指標への影響力を分析した.また,構築したモデルにおいて感度分析を行い,勤務時間等の時間的制約が緩和した場合における交通行動の変化の分析も行った.
これらの結果,世帯構成員の行動や時間的制約が,活動を行うか否かという意思強度,及び行動パターン指標として内生化した自由活動回数やその活動時間に影響を与えていることを確認した.そして感度分析の結果より,時間的制約条件を緩和させることで自由活動目的のトリップが誘発されて増加することが確認できた.これより,フレックスタイム,時差出勤のような時間的制約の緩和・活動時間帯の変更等によって渋滞緩和を目的とするTDM施策の導入には,小規模ではあるが誘発交通を招くことを確認した.よって今後,TDM施策の評価においては,誘発交通量も考慮した評価手法が必要となると結論付ける.