増田 心吾
関川流域における分布型流出モデルを用いた洪水流出解析
平成7年7月11日に北陸地方を中心に集中豪雨が原因の洪水が多数発生した。同日、新潟
県上越地方の関川流域でも大規模な洪水が発生した。その際、堤防の決壊による氾濫水や、
水位の上昇による越流水、流量観測機器の故障などのために正確な実測流量が測定不能であ
り、水害後に流量の状況把握が困難になった。このような大規模な洪水が現れると、統計的
特性が大きく変わることが危惧され、慎重なデータの整備と確かな技術による解析が必要と
される。そこで、本研究では関川流域において分布型流出モデルを作成し、7.11洪水の流量
推定を行った。得られた流量資料に基づいて確率高水流量を検討し、7.11水害が統計的特性
に与える影響について検討した。
関川は延長64km、流域面積711.12km2の一級河川である。この流域を50m格子の標高
データで表わし、格子間を結ぶ擬河道網を作成した。この擬河道網により分布型流出モデル
を作成した。作成されたモデルは、降雨の流出成分を直接流出と基底流出とに分離し、作成
された擬河道網内を河道追跡モデルにより追跡計算し、流域出口で流出量を得るというもの
である。分布型流出モデルで使用される最も重要な3つのパラメーターを、過去の洪水を対
象に実測流量と計算流量が合うように選定し、モデルを同定した。そして、この同定された
モデルを用いて7.11洪水の推定流量を算出した。また、モデル同定の際のパラメータ範囲で
考えられる最大流出量の上限値(以後、パラメータ最大と呼ぶ)と下限値(以後、パラメー
タ最小と呼ぶ)も求めた。
関川における平成7年7月11日水害において、最適とされるパラメータを用い流出解析を
行った結果、推定最大流量は2,180m3/sとなった。また、パラメータ最大での推定流出量は
2,410m3/sで、パラメータ最小では2,120m3/sとなることが解った。最大流量の誤差はこの範
囲であると考えられる。

 算出された流量を用い計画高水流量の基礎となる確率流量を、対数正規確率分布をあては
めることにより求めた。

 平成7年より以前の年最大流量を用いた資料の100年確率流量は2,476m3/sと算出された。
次に、分布型流出モデルにより同定されたパラメータを用い算出された平成7年7月11日流
量を加えた資料により求められた100年確率流量は2,749m3/sとなった。また、パラメータ
最大で算出した推定流量を加えた資料の100年確率流量は、2880m3/sとなった。このように、
流量資料に基づいて河道計画高水流量を定めるものとすれば、安全性を重視するなら、100
年確率流量を2880m3/sとすべきであり、経済面を重視するとしても、2476m3/sとし、これ
以上下げることは危険であると考えられる。