馬河 紘子
題名:沿岸海域における潮汐流計算
沿岸海洋における環境保全プロジェクトにおいて、潮流の数値シミュレーションがしばしば試みられる.海洋工学における流体シミュレーションでは数値手法としては差分法が一般的であるが、長い年月を経て多くの手法が開発されている。しかしながら、あくまでも数値シミュレーションは近似によって方程式の連立解を求める手法であり、どのような手法も完全に自然現象を再現できるものではない。よって、解析を目的とする現象や計算領域の特性を熟考し、最も適した計算手法を選択する事によって初めてシミュレーション結果は意味を成すのである。この場合、特に潮流現象が問題になる。そしてさらに、潮流成分往復流成分と定常流成分である潮汐残差流成分とに分けて考えたとき、後者は物質輸送という観点からも極めて重要な意味をもつ。しかしながら、その値が小さいために計算モデルに採用する数値手法によって異なる結果を生じることが危惧される。
そこで、本研究では、第一に、従来シミュレーションが行われたことのない中国遼寧省大連湾に加え実測潮流データが比較的豊富に存在する瀬戸内海広島湾について、潮流数値シミュレーションを行い、第二に、その過程において数種類の数値手法を用いて潮汐残差流の相違、その数値手法の特性による影響を、基礎地形を含めた実験により検証する。
採用した数値手法は、古典的なリープフログ法、一般的に多用されるADI法、そして最近発表されたCassuliの方法である。
まず最初に、大連湾について外海域を含めた計算を行い、ここでは採用する数値手法によって潮汐残差流が異なることを示した。
次に、基礎地形による残差流機構解明のための実験を行い、潮汐残差流が地形の流れと直角方向に不均一である場合に最も発生することを示した.
また、以上の実験から得られた検証結果は現地データの豊富な広島湾の計算結果により確かめることができた。