高橋優信
発展途上国に適用可能なエネルギー最小消費型の下水処理プロセスの開発
スポンジ担体散水ろ床 (DHS-G3) リアクターの処理特性
発展途上国では下水のほとんどが無処理で垂れ流しの状況にあり、適切な下水処理システムを整備することが緊急課題である。発展途上国における下水処理システムの導入の条件は、(1) 建設費・維持費が安価であること、(2) 維持管理が容易であること、(3) 敷地面積・規模がコンパクトであることが望まれる。本研究室では数年来、途上国に適用可能な下水処理システムとして、UASBと懸垂型スポンジ (Downflow Hanging Sponge: DHS) を組み合わせたシステムを提案してきた。懸垂型スポンジカーテンリアクター第二世代型システム(DHS-G2)では、実下水を用いた5年間の連続運転から、平均全BOD除去率で95%以上の安定した処理特性を示した。そこで本研究では、実プロセスへのスケールアップが容易な第三世代型のスポンジ担体散水ろ床リアクター (DHS-G3) を開発した。途上国における排水基準を満たす水質の確保を目的として、本法の処理特性および適用性を検討すべく、UASBとDHS-G3を組み合わせたパイロットスケールプラントを都市下水処理場に設置し、実下水を用いた連続処理運転を行った。連続処理開始時のHRTは、UASB24時間、DHS-G38時間とし、徐々にHRTを短縮していった。UASBのHRTで8時間、DHS-G3のHRTで2.7時間の運転条件では、卓越した有機物除去能と高い硝化能を継続的に有した。運転開始72日目以降のUASB6時間、DHS-G32時間のHRTでは、UASB流出水の汚泥負荷の増大から浄化に阻害が発生し、システム全体の有機物除去能は低下し、窒素除去のシステムは破綻した。しかしながら、運転開始180日以降の処理性能は回復の兆しを示し、さらに207日目以降は90%以上の卓越した有機物除去能と70%以上の高い硝化能を有し、安定的な処理水を得ることができた。DHS-G3の基軸方向の基質分解特性を調査したところ、微生物によって易分解性な有機物は流下高さ0.765mないしは1.68mのDHS-G3上部において浄化され、それ以降の下部において硝化反応が進行していることが明らかとなった。これは、DHS-G3流入部、すなわち上部では有機物が多く存在するため有機物酸化細菌が優占的に存在し、下部では硝化細菌が優占的に存在していることを示している。しかしこの分解特性は、高い浄化能力を有したときの場合であり、UASBからの流入汚泥量がDHS-G3の持つ浄化能力を超えた場合、その浄化能力は破綻する可能性が高いことも本連続下水処理実験で示されている。よって、DHS-G3による水質浄化を期待するには前段のUASBの安定性が重要な鍵となる。また、DHS-G3リアクターの混合特性を調査したところ、実際のHRTは理論値 (計画HRT) の25%程度の運転であることが明らかとなった。しかしながら、極めて短いHRTでも浄化が行われていることから、スポンジ担体の形状および材質等の改善を行えばより処理能力が向上する可能性が示唆された。以上のことから、DHS-G3は卓越した有機物除去能と高い硝化能を有し、エネルギー最小消費で維持管理が容易なプロセスとして途上国への適用が可能であるとの見解が得られた。また、DHS-G3はスポンジ担体の改善次第で処理能力はさらに増大できうる可能性を有した。