熊谷祐介
新規の多段型UASB廃水処理プロセスにおける基質分散供給(マルチフィ−ド)の有効性の評価
UASB(上昇流嫌気性汚泥床)プロセスは、微生物の自己集塊化を巧みに利用した高負荷型メタン発酵バイオプロセスである。高負荷処理の主体となるグラニュ−ル汚泥の形成には、適度な上昇流環境およびバイオガスによる緩やかな撹拌効果が必要とされていたため、UASB反応槽底部からの単一フィ−ドが主流となっていた。しかしながら、この方式を採用した従来型UASBプロセスでは、底部における局所的なpH低下(酸敗化)が生起しやすいため、酸生成の集中化の回避、適切なアルカリ度の確保といった対策を講じる必要がある。さらに、通常のUASBプロセスでは良好な処理を行なう上で1.2gCaCO3/gCOD以上のアルカリ度が必要とされており、不足分は外部からのアルカリ剤添加によって補う必要がある。実プラントでのアルカリ度補給は大きな財政的負担となるため、アルカリ剤使用量を最小限に抑えるような手法が求められている。そこで本研究では、アルカリ度要求量(アルカリ剤使用量)の削減を目的として、新規のマルチフィ−ドを導入した多段型UASB連続処理実験(対象廃水:清涼飲料製造廃水、アルカリ剤:5%-NaOH)を行なった。なお、連続実験期間をRun1(単一フィ−ド運転)およびRun2(マルチフィ−ド運転)の2つの小区間に大別した。Run 1では、COD容積負荷30kgCOD・m-3・day-1で、COD除去率90%以上、メタン転換率85%程度の高負荷処理および高効率メタン回収が可能であった。これは、従来型UASB反応槽と比較しても2〜3倍の処理に相当し、多段化に配置されたGSS構造の有効性が立証された。しかしながら、COD容積負荷40kgCOD・m-3・d-1(COD濃度6,000mgCOD・L-1)では、反応槽底部におけるアルカリ度消失(プロセス破綻)が生起し、局所的なVFA化を緩和する必要性が明示された。Run 2初期では、プロセス回復(アルカリ度改善)を目的として、1)マルチフィ−ド運転、2)COD容積負荷の減少とアルカリ剤添加量の増大、および3)処理水循環併用の3つの手法を適用した。処理水の一部利用(循環比0.5程度)が最も有効であったが、プロセスの回復には100日以上を要した。プロセス回復後(Run2後期)、廃水供給方式の違いによる酸生成分散効果およびアルカリ度要求量の削減効果についての検討を行なった。その結果、6min/4min/2minのマルチフィ−ド設定条件において酸生成は反応槽基軸方向に分散化され、約40%のアルカリ度要求量の削減が可能であった。