瀬戸 沙織
含塩素有機リン酸トリエステル分解菌の単離の試み
有機リン酸トリエステル類は、殺虫剤などの農薬やプラスチック可塑剤、難燃剤など工業的に幅広く用いられており、これまで大量に生産されてきた。これらの有機リン酸トリエステル類は、農薬を使用したり、プラスチックを廃棄処理したりすることによって地下水や河川に容易に溶け出し、水環境を汚染し、人体に悪影響を及ぼす可能性がある。有機リン酸トリエステル類の中でも Tris(1,3-dichloro-2-propyl)phosphate(以下TDCPPと略す)とTris(2-chloroethyl)phosphate(以下TCEPと略す)
などの塩素を含むものは、毒性が強く発癌物質であることが知られている。また、それらは微生物分解に関する知見がこれまで知られておらず、分解が難しいことが示唆されている。
そこで私は、これらの含塩素有機リン酸トリエステルを分解して無毒化する必要があると考え、含塩素有機リン酸トリエステル類のうち、まずTDCPPを分解する可能性のある微生物を野外採取した30試料からスクリーニングし、その微生物の単離を試みた。
スクリーニングは、微生物がTDCPPをリン酸源として摂取しやすいような、リン酸を制限した完全合成培地を用いて行った。その結果、添加したTDCPPを顕著に減少能させた6試料中から4種の菌株の単離に成功した(菌株No.9A、9B、14、17Aとした)。4菌株について、形態学的な観察を行ったところ、菌株No.9A、9B、14は糸状菌、菌株No.17Aは酵母であることが示唆された。
4菌株のうち最も高いTDCPP減少能が観察された菌株No.9Bについて、まず、リボソームRNAをコードする遺伝子の塩基配列に基づき分類同定を行った結果、この菌株は、Ascomycota(子のう菌門)Euascomycetes(真正子のう菌亜門)に属するカビである可能性が示唆された。
次に、添加胞子数とTDCPP減少との関係について検討した結果、添加胞子数の違いに関わらず、30 %〜40 %のTDCPP減少が認められた。しかし、菌体濃度の増加に伴うTDCPP減少の増加が観察されなかったことから、菌体濃度とTDCPP減少の関係を明確にすることはできなかった。
今後、培養中の培養液の性質を明らかにし、培養条件の向上の検討および本菌株がTDCPPに対する分解菌かどうかを究明することが必要であると考えられる。