五十嵐 啓明
女性ホルモンにより誘導合成される魚類のタンパク質に関する研究

 女性ホルモン作用を示す内分泌攪乱化学物質の水環境中における影響を魚類において用いて評価する際に、卵黄タンパク質前駆体であるビテロジェニン(Vtg)がバイオマーカーとしてもちいられている。ビテロジェニンは、一般に、天然の代表的な女性ホルモンの一種であるエストラジオール−17βが肝細胞内のエストロジェンレセプターと結合することにより誘導合成される雌特異的なタンパク質であるが、雄や未成熟な雌でもエストラジオール−17βを投与することにより血中に誘導されることが確認されている。

 雄のメダカに対してエストラジオール−17βを曝露した場合にビテロジェニンのほかにも抗メダカ卵黄抽出液抗血清に対して交差反応を示す雌特異的なタンパク質が2つ誘導合成されたという報告や、低濃度の女性ホルモン作用を示す化学物質を曝露した場合にビテロジェニンは誘導されず、ビテロジェニンよりも高分子量のタンパク質が2つ誘導され、それらが抗メダカVtgポリクローナル抗体に対して交差反応を示す雌特異的なタンパク質であったという報告がある。もし、雄のメダカにおいて女性ホルモン作用により誘導合成されるタンパク質がビテロジェニン以外に存在し、ビテロジェニンよりも優先的に誘導合成されるならば、低濃度曝露の影響をより早期に検出できる新規のバイオマーカーとなりうる可能性がある。本研究では、その点に興味を抱き、エストラジオール-17βを曝露された雄メダカの体内に誘導合成されるタンパク質が、ビテロジェニンのほかに、それよりも高分子量のタンパク質が存在するか否かの確認及びにそれらのタンパク質とビテロジェニンとの関連性を検討する研究を行った。

 100 μg/Lエストラジオール−17βを曝露された雄メダカから得られた腹水をNative-gradient、ウェスタンンブロッティングにより分析した結果、ビテロジェニンのほかにビテロジェニンよりも高分子質量のタンパク質が2つ(約600 kDa、450 kDa)誘導合成され、それらのタンパク質が抗メダカVtgポリクローナル抗体に対して交差反応を示す雌特異的なタンパク質であることが確認された。そして更に、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングにより分析した結果、それらのタンパク質はビテロジェニンを構成する200 kDaのサブユニットを含んでいることが確認された。これらの結果は、雄のメダカにおいてエストラジオール−17βにより誘導されたビテロジェニンよりも高分子量のタンパク質がビテロジェニンと関連性の高いタンパク質であることを示唆している。