菅原 航平
衛星搭載合成開口レーダと光学センサによる長岡市周辺地域の水稲作付面積推定の検証
毎年の水稲作付面積は農政局の統計調査によるもので、多くの労力を必要としており,調査労力軽減と効率的な調査体系の改善が求められている。また、農協など小さな単位では、水稲の位置情報など様々な情報を把握しているが、県や国の行政単位に伝わっていかない。補助金の支出など行政施策を決めるための基礎情報として広域の水稲作付面積把握が望まれている。そこで、本研究では広範囲を観測可能な人工衛星データを利用した水稲作付面積推定手法を用いることとした。

 衛星データの水稲推定は合成開口レーダ(SAR)や光学センサで単独で行われているが、本研究では,SARと光学センサを併用して水稲作付面積を推定する手法を開発し、統計情報と比較し本手法の有効性を検証した。従来では数時期の光学センサデータを用いるものが多く,データの取得が天候に左右される欠点がある。また、SARのみでは推定精度に安定性がみられない。本研究は,水稲の初期状態から生長期を全天候型SARデータを多用し,光学センサデータは作付から刈入までの期間内1時期データを用いた。
長岡市周辺14市町村を、'98年5月、7月のSARデータと、'99年8月に光学センサLandsat・TM 1時期を使用して水稲面積を抽出し、統計面積と比較した。SARデータには高度補正を行った。その結果,都市的地域と平地農業地域での平均推定精度は3.6%,中・山間農業地域での平均推定精度が9.1%となった。この段階では取得年の異なるデータを用いた影響(転作など)が精度に現れると予想していたが,中・山間農業地域で著しく精度が低いため,実測から傾斜区分1/300未満と1/20以上に水田が存在しない市町村について,国土地理院の50mDEMを用いた地形補正を試みた。しかし,2市町村では精度向上が見られたがその他の市町村では精度向上は見られなかった。原因として,地形補正に用いた50mDEMの精度では水田が存在する実地形を捕らえるには不十分であると考察する。
その後,SARデータと同じ取得年度の光学センサデータ(SPOT・HRV)を用いた解析を行った。結果は都市的・平地農業地域で推定精度が8.3%、中・山間農業地域で‐30.1%とTMを用いた場合に比べ低くなった。この原因として,光学センサの取得時期が田植えから1ヶ月程度(6月1日)で水稲を衛星データでうまく捕られなかったことや、中間赤外域がHRVに存在していないことが考えられる。
推定精度が低下する原因を方位角や傾斜角、鳥瞰図を用いて考察した。結果、傾斜の多い地域で尾根部や標高の高い地点で水稲が抽出される。これはSARの標高歪補正の不完全さやSARとTMデータの位置ズレが主原因であると考える。
まとめとして本水稲作付面積推定手法は、平野部における推定面積の統計面積との誤差が実用的な精度で推定することができる。山間部の傾斜の大きな地域では、地形補正を行ってもなお推定誤差が低く、推定精度の向上の必要がある。