焼却灰溶融におけるスラグ品質に及ぼすリンの影響

廃棄物・有害物管理工学研究室 早川 義昌

          指導教官 桃井 清至 

               小松 俊哉 

               姫野 修司

 都市ごみや下水汚泥の焼却灰については、安定化・減容化を目的に溶融処理が実施され、溶融処理で生成されたスラグの有効利用の拡大が資源循環型社会への展開を担うものと考えられている。そこで、有効利用拡大のため本研究室では都市ごみ焼却灰溶融スラグの向上を図ってきたが、更なる拡大のため下水汚泥焼却灰溶融スラグの検討も必要である。

 都市ごみ・下水汚泥の焼却灰組成は、ほぼ同様であるが、大きな違いとして都市ごみ焼却灰に比べ、下水汚泥焼却灰には10〜30%のリンが含まれ、焼却灰中のリンの含有量がスラグ品質に影響を及ぼすと予想される。一方、焼却灰の溶融システムには炉内を酸化雰囲気で運転する方式と還元雰囲気で運転する方式とがある。そのため、溶融スラグは炉内雰囲気によってもスラグ品質が異なることが予想される。

 そこで本研究では、溶融処理において炉内雰囲気を酸化・還元状態に変化させた場合、従来からの溶融スラグの特性を表す指標である塩基度(CaO/SiO2)に加え、リンの量的変動がスラグの物理的強度特性、環境安全性に及ぼす影響について検討を行った。またリンは重要な資源であるため、下水汚泥焼却灰からの資源回収性についても検討した。実験試料として、焼却灰組成調査をもとに主成分SiO2、CaO、Al2O3、Fe2O3、Na2O、P2O5の6成分を決定し、塩基度及びリンを変動させた人工灰を用い、1400℃で2時間溶融後、4℃/minで徐冷してスラグを作成した。また、有害重金属の溶出特性の把握を目的として各人工灰中にPbOを1wt%添加した。

 スラグの物理的強度特性には、ロサンゼルス試験機による粗骨材のすり減り試験方法(JIS A 1121)を改良した方法を用い、リン含有量が高い場合、塩基度1.0以上であれば、リン酸カルシウム結晶を構成するため、すり減り減量が低下し、コンクリート用砕石に再利用可能なレベルとなった。

 スラグの環境安全性には、pH4固定法におけるスラグからの金属類の溶出特性で評価し、還元雰囲気の場合、酸化雰囲気に比べ鉛の溶出は低減され産業廃棄物埋立基準を満たす結果となった。これはスラグへのPb移行率が減少したためと判断された。

 スラグへのリン固定化率には、生成したスラグを粉砕後酸分解し、ICPによりリンの分析を行った結果、還元雰囲気の方がリン固定化率が低い結果となった。これは、還元雰囲気においては、リンがメタルへ移行、また揮発性の高い物質であることからもスラグ化に伴い、含有量が低下したためと思われる。
以上のことから、P2O5量によらず、塩基度1.0以上の還元雰囲気で作成したスラグであれば、全体的にすり減り減量、Pb溶出濃度も低下し、品質、環境安全性の高いスラグが得られ、また、資源としてリンを回収することも可能と考えられる。これは下水汚泥焼却灰の最適溶融条件として、実灰に対しても対応できることが確認できた。