鉄粉と嫌気性集積培養菌を併用した有機塩素化合物汚染土壌の浄化手法の開発
廃棄物・有害物管理工学研究室 佐野 亘
指導教官 小松俊哉 桃井清至 姫野 修司
嫌気性集積培養菌を用いた有機塩素化合物汚染土壌のバイオレメディエーションは,他の浄化方法と比較して環境負荷が低くコストがかからないなどの点から期待されている。嫌気性集積培養菌はPCE等の有機塩素化合物を無害なエチレン(ETY)・エタン(ETA)に転換する際に電子供与体として水素が必要となり、本研究室では有機物(エタノール)を電子供与体とすることで安定した浄化が得られてきた。しかし、嫌気性集積培養菌の活性が良いのは中性付近であるため有機物を電子供与体とした場合では酸性土壌系には適用困難である。
そこで本研究では嫌気条件下において、無機物である鉄粉から水との化学反応(Fe+2H2O→Fe2++2OH−+H2)により水素が発生することと、水素発生に伴い水酸化物イオンを生成しpHが上昇することに着目した。この化学反応で電子供与体となる水素が得られ、酸性土壌のpHを嫌気性集積培養菌の活性が良いとされる中性付近まで上昇させる可能性がある。また鉄粉単独でも還元作用があるため、近年鉄粉は有機塩素化合物汚染土壌浄化手法としても注目されている。このような背景から鉄粉と嫌気性集積培養菌を併用することで有機塩素化合物汚染土壌の浄化に向けて更に効率化が図れる可能性がある。
そこで本研究では鉄粉から水との化学反応により発生した水素を電子供与体として嫌気性集積培養菌によりPCEをETYに転換することが可能であるかを確認した上で、pH調整を考えた鉄粉添加量、電子供与体として必要な鉄粉添加量、各種土壌への適応、高濃度PCE汚染土壌への適応などについて検討した。また、鉄粉単独の場合と比較して、嫌気性集積培養菌の投与効果を明らかにした。実験試料として土壌は2種類の非汚染土壌を使用し、砂質土壌(pH7.16)を中性土壌、粘性土壌(pH5.29)を酸性土壌とした。全ての実験方法がほぼ同様に、68mlのバイアル瓶に集積培養液40ml、土壌(中性土壌or酸性土壌)20g、鉄粉、PCEを所定の量投与し、嫌気状態とした上で静置した。
まず始めに電子供与体としての鉄粉の効果を検討した結果、中性土壌系では鉄粉2g/kgで電子供与体としての効果が確かめられ、ETY・ETAまでの転換が行われたが、酸性土壌系では鉄粉添加量が少量であったためpHが中性まで上昇せず菌の活性が低下し鉄粉の電子供与体の効果は確認できなかった。この結果より土壌のpHに対するpH調整剤としての最適な鉄粉添加量を検討した結果、中性土壌系には鉄粉2〜4g/kg、酸性土壌系では鉄粉8g/kg以上で集積培養菌活性の至適範囲内のpHに保たれており、同時に電子供与体としての効果も観られ、この電子供与体として必要な鉄粉量は化学量論値の60倍〜240倍であった。次に高濃度PCE汚染土壌に対して鉄粉と嫌気性集積培養菌を併用して浄化可能か検討した結果、両土壌とも高濃度の場合もETY・ETAへの転換が概ね進行した。また鉄粉単独によるPCEからETY・ETAへの転換は若干進行するものの、完全な無害化は行われなかった。
以上の結果より、鉄粉と嫌気性集積培養菌を併用することで中性土壌・酸性土壌のどちらのPCE汚染土壌に対しても適応可能であり、電子供与体とpH調整剤としての最適な鉄粉添加量を明らかにすることができた。